できることなら、図画工作や美術の授業では、いきなり実践による絵の上手い下手ではなく、かたくなくて良いので講義も行ってほしい。正直にいって、大学や専門学校で藝術系を専攻していない限り、アートとデザインの違いや物の分野を知る機会がほとんどない。一般的にはアートとデザインはあまり識別されてはいないし、美術と藝術も同義に扱われているように思う。もちろん習っているのに混同している人もいるため、言葉はわからなくても結構だが、アートやデザインの話が出た途端に壁をつくられては話にならない。義務教育の中で多少なりとも素養を育むことができれば、日本のものづくりの水準は飛躍的に向上するはずだ。町工場に勤める職人と、アーティストやデザイナーとの共創も、お互いが理解し合えばもっと上手くいく。そもそも日本の職人は、技術にも美術にも秀でていたのだから。
教育といえば、彫刻家佐藤忠良氏が小学生向け美術教科書の冒頭に綴った言葉があまりにも素晴らしいので、ここに引用させて頂く。
“
この ほんを よむ ひとへ
ずがこうさくの じかんは、
じょうずに えを かいたり
じょうずに ものを つくったり する
ことが、めあてでは ありません。
きみの めで みた ことや、
きみの あたまで かんがえた ことを、
きみの てで
かいたり、つくったり しなさい。
こころを こめて
つくって いく あいだに
しぜんが どんなに すばらしいか、
どんな ひとに なるのが
たいせつか、
と いう ことが
わかってくるでしょう。
これがめあてです。
”
(引用:「子どもの美術1」現代美術社 初版一九八〇年)
この言葉は、美術教育における残すべき日本の財産だと思う。もちろん、わかることが目当てとは言い切れない部分はあるが、単なるお絵描きや工作の授業ではないことが誰にでもわかる言葉で表現されていることは本当に素晴らしい。
少なくとも、友人や子どもには教えてあげよう。
ものづくりの本質は、出来映えではないということを。
ものづくりの本 より