適した素材

もとを辿ればすべて自然由来だが、ものづくりの材料としては自然物と人工物がある。

木や石などの自然物によるものづくりは、素材の個性が必然的に生まれるため唯一無二の価値が生じやすい。同様の物を提供することはできないことから、一品物の作品に向いている。
布や金属、樹脂などの人工物によるものづくりは、均一な品質を保ちやすく一定の価値が生じやすい。素材の個体差が生まれにくいことから、量産する工業製品に向いている。
もちろん、向いているだけであっていずれにもなれる。前者では自然からの恩恵を受けやすく、後者では作者の意図を反映しやすい。

それぞれ上記のような特徴があるが、道具を生み出す上で重要なのは、堅さや手触り温度や香りといった素材が根本的に備えている特性を活かせるかどうかだ。当然のこととして座る座面に金属を用いては体が冷えてしまうが、木のように温もりのある材料は心地良い。反対に刃物の場合は、薄くても丈夫な金属の方が木材よりも適している。素材ごと、最も適した使い方が有るため、他の材料が相応しいと考えられる領域へ無理に形作ってはいけない。道具を手掛けるにあたっては他の素材よりも素材特性上で優れていることが望ましい。観点としては製造工程、使用する環境、素材の循環などがあり、簡単に言えばつくりやすく、使いやすく、土に還りやすい素材は環境に優しく優れた素材といえる。持続可能性を考慮するなら、杉や桧に代表される針葉樹は成長が早く真っ直ぐ伸びる上、日本全国に産地がある素晴らしい素材だ。政策によって需要以上に植えてしまった背景から、活用することそのものが社会的意義となる稀な素材でもある。ちなみに杉の学名はCryptomeria japonica。語源はギリシャ語で「隠れた」を意味するcryptosと「部分」を意味するmerisにラテン語で「日本の」を意味するjaponicaが合わさった言葉で、希望溢れる訳をするなら「日本のとっておき」。
そろそろこの切り札を、活用しても良いのではないか。

いずれにしても適材適所は、あらゆる道具に最適な考えである。

 

ものづくりの本 より