伝統は革新の産物であった。
木の器を真っ赤に染めた当時、その強烈な個性を放つ器は、現在の私たちが漆の器から受ける印象とは全く異なる、気鋭の存在であったに違いない。今でこそ見慣れているが、赤い漆の器と初めて対峙した人は、きっと驚いたことと思う。だからこそ、本当の意味での伝統とは、単に伝え繋いでいくものづくりのことではない。
古来より伝わる伝統的工芸品の模写は、その道を究めるにあたって必要不可欠な大切なものづくりだと感じる。しかし物はあくまで現代で使う。そのため、継承するべきはその技術やものづくりに対する精神であり、物そのものではない。そこに人類の進歩があり成長がある。ただし、異分野の新しい物を手掛ければ良いということでもない。もちろん、そのように大きく舵を切り成功する伝統工芸もあるかとは思うが、それだけが答えではないと考えている。その伝統技術がその物を手掛けてきたという歴史は、紛れもなくその技術がその物に相応しいことを示しているからだ。
確信を持っていえることは、伝統は生み出せるということである。
ものづくりの本 より