お箸をつくる

晴れた日の自転車は気分がいい。
なかなかの斜度を駆け上がって行く学校までの道のりは、直島の芸術祭で島を自転車で一周したことも思い出させてくれる。

人生を通して、坂を自転車で駆けあがる、という想い出が結構ある。
そういえば実家も、最寄駅から家までの坂道を自転車で駆け上がっていた。
立ち漕ぎで懸命にペダルを踏まないと頂に辿り着けない感覚は、その後高校で出会った山岳にも活きた経験であり、何なら物事をやりきる精神力は、今にも活きてる。

 

前回までで鉋を研ぎ終わり、今回は初めての制作物としてお箸を制作した。

まずは樹種を選ぶ。

八王子で採れるという栗や桑をはじめ、ウォールナット、桜、欅、楢から好きな材を選んだ。

余談としては、江戸時代、八王子は蚕を使った織物産業が盛んで、蚕の餌である桑が豊富にあったことから「桑の都」という古称もある。
学校が八王子にあるので、これにちなんで桑もいいかなとも思いつつ、木工といえば欅のイメージが強かったので、最終的には欅を選択した。

材を選んだら、練習で檜のお箸に取り掛かる。

制作にあたっては、治具を使う。
これは平衡に鉋を引くとお箸の角度になる治具で、先生が用意したもの。
今回製作するのは八角形のお箸で、この治具が無いと難易度が全然違うと思う。

 

はじめに金槌で鉋の刃を調整し何回か引いたところ、抵抗が強く力を入れる必要あった。
こんなに必要なのかな?と疑問が湧き、もう一度金槌で調整したところ上手くスーっと引けた。どうやら刃を出し過ぎていたらしい。

これは、実際に体験しなければ得られない感覚で、本当に僅かな調整の違いが引く際の切れ味に影響する。檜の場合は、刃が出てるか出ていないか、そのくらいの際を狙うのがいいことが分かった。

体験しなければ分からないという視点で言えば、香りもそのひとつ。
特に檜は、芳醇な本当にいい香りが空間に広がる。

 

先端が八角形になったところ。
辺を揃えるには意外と神経を使う。

ああでもないこうでもないと調整しながら削った結果、二本仕上げるのに2時間くらい掛かった。
これもいい勉強だなと思う。
学生の頃は一週間思考し一週間で作品を仕上げる、といったサイクルだったから、これでも早いくらい。

もちろん、データであれば1分も掛からないから、そういった意味では手間暇掛けてこんな単純な形に何時間も掛けるのは謎ではあるけれど、やっぱり、手を動かさなければ得られない感覚が確かにある。

 

次は本番、欅でつくる。
今回よりも、よりいいものにしたい。